トップページ > 東京ローカルメッセージ > 01 ニッポンの料理人に「幸」あれ
いつも料理のことを考えている。
楽しみながら試行錯誤する。
千葉の北総大地から届く野菜を
ふんだんに使った一皿。
自然放牧牛乳に4種のチーズ、
デラウエアのソースを添えた一品
肉を焼く、ただそれだけのことが難しい。
だからこそ、面白い。
明るくて清潔な店内。
島田の料理に対するポリシーがうかがえる。
大通りから一本入った路地。
西麻布の喧騒を忘れる大人の隠れ家。
住所: 東京都港区西麻布1-11-10
Tel: 03-3479-0046
定休日:月曜日
営業時間:
【ランチ】木曜日~日曜日
12:00~14:30(L.O.13:30)
【ディナー】 火曜日~日曜日
18:00~23:00
(L.O.21:30、日曜日のみ21:00)
アイヌ語で「ノッ・サム」。岬の傍らという意味を持つ北海道の納沙布岬。若き日の島田伸幸は、そんな岬の傍らで海に潜りウニなどの魚介をおやつ代わりに頬張っていたのか。1966年北海道根室市に生まれ。女兄弟がいなかったことから、自然と母親の手伝いをするようになり台所へ。母と並んでパンやシュークリームなどを作ったのが原点。割と早い時期から、自分は料理人になる、そう心に決めていた。北の港町に生まれ育った青年が、高校卒業と同時に目指したのは料理の名門、服部調理師専門学校。上京した島田の目にはじめての東京、そして東京のレストランはどう映ったのだろうか。
彼が選んだ道はフレンチ。しかし、年月を経ていくうちに、重厚でクラシックなフレンチの手法に疑問をもつようになった。「修行も兼ねて本場フランスにも行きました。けれども重すぎて体に合わなかった。だから、より軽いイタリアンへ傾倒していきました。バターよりもオリーブオイル。肉よりも魚、野菜。まずいからでなく嗜好。それは自分にとって自然な事でした。」そうして、都内のいくつかの店で修行を積んだ後、1997年に友人らと西麻布に一店舗目のレストラン。その後、2001年に六本木の裏通りに「cuisine nature CiaoBella チャオベッラ」を開店させた。
当初から自分の体に入れるものには気をつかう女性客やベジタリアンに贔屓にされ た。既成のイタリアンというよりチャオベッラのイタリアン。万人を満たす料理ではなくあくまで自分のポリシーを貫いた。「野菜は食材として物足りない気がしていた時期もありました。ただ、ある生産者との出会いが料理を変えたのです。ニンジンを生のままかじるとみちがえるほどおいしかった。当時、オーガニックという言葉はまだほとんどありませんでしたが、より自然に作られた食材には力があることを知りました。」それから、島田のこだわりは食材。そして、それらの食材にストレスを与えずどうシンプルに調理するかに没頭した。現在は、食材はもとより、厨房で使う水、油、塩などの脇役に至るまで吟味を重ねよりオーガニックなものを使う。
北海道の短い夏を思わせる澄んだクリアな味私が島田の料理を最初に口にしたのはこの頃だ。忘れられない一皿がある。 フォンティーナやゴルゴンゾーラ、パルミジャーノといった癖のあるチーズ。それを手作りのラビオリに射込む。ソースとして合わせたのが、自然放牧牛の牛乳とまだ少し若い生のデラウェアだった。一見、想像がつかない味覚の取り合わせだが、これも島田にしてみれば必然だという。チーズフォンデュには白ワイン。だとすれば、濃厚なチーズに酸味のある若いブドウの味は合う。それを受け止めるのは、微かに牧草の香りをまとう自然放牧の牛乳。 さらりとした口当たりは人肌に温めるとそのままソースになった。
この島田の皿は、今や巷に溢れている、いわゆるロハスやベジタリアン、ただ、体に優しいというふれこみのそれとは一線を画す。 何より驚きとセンスのある逸品を口に含んだ途端、ある風景が浮かんだ。北の港町で育った少年が、捕れたてのウニを海水で洗い初めて口に含んだときの笑顔。思わず駆け出したくなるような迷いのない味。
島田のいずれの皿を頂いても食材に対する真摯な姿勢と、北海道の短い夏を思わせる澄んだクリアな味は変わらない。その一方で、帯広産の放牧豚や天然林で育ったイノシシの肉などにも造詣は深い。肉を仕入れた後、店で熟成させながらタイミングを図り、下処理が面倒な臓物料理にも手間暇を惜しまない。「塩ひとつふるにしても、どんな塩を、どのタイミングでふるかによって仕上がりの味は変わってくる。シンプルというのは、何もしないことではなく、やっぱり手を入れる事だと食材から教わりました。」
何事も、自然にというのは難しい最近、郊外に手作りの小さな菜園を作った。気が向いたときなど、ランチの営業をさぼってその畑で過ごすこともある。柔らかな陽だまりの中、土をいじっている時間が癒しなのだという。何事も自然に、というのは難しい。ただ、島田が口にするとなんだか腑に落ちる。屈託のない笑顔の向こう側に、やっぱり、あの頃の少年の姿が今も重なる。
2010年1月、島田はさらなる進化を遂げるため、住み慣れた六本木を離れ古巣である西麻布に移転。店名はそのままにリニューアルを果たした。 店の冠に配した「cuisine nature(キュイジーヌ・ナチュール)」とは島田が作った造語であり哲学だ。自然とは、その存在が唯一無二、という意味である。
1977年佐賀県出身。食べる喜びと食べなくては生きてはいけない辛さ。人の営みに「食」は必要不可欠です。皿の上に盛られた「料理」そのものの世界から、その一皿を巡る命のドラマまで幅広く取材。連綿と続く人間の「食」への性をテーマに雑誌やテレビ、ラジオなどで発表している。東京ローカルレストランではプロジェクトリーダーとして、食材の発掘コーディネートなどを行う。まだ見ぬニッポンの幸を求めて、日本各地の生産者を訪ねる旅を続けている。